本キットについて
本キットは SANYOもといPanasonicのオーブントースターNT-T500ないしNT-T300に組み込み、M5Stackで制御してリフローオーブンに改造する為のキットです。本キット以外に別途改造元になる上記トースターと制御用のM5Stackが必要となります、改造には各種工具と一般的な電子工作の知識技能が必要になりますのでご了承下さい。M5StackはBasic/Gray/Fireの3種類で動作確認済みです。
はじめに気の早い方向けに制御用プログラムのソース、バイナリ、回路図がプッシュされているGitHubリポジトリのリンクを貼っておきます。トースターの改造については必ず本文を一読して下さい。
https://github.com/ooISHoo/M5Reflow
回路構成としては位相制御式トライアック2chと電源、K型熱電対インターフェースで構成されています。ソースコードおよび回路図は公開されていますのでご自身で改造することも可能です、開発環境はESP-IDFです。
必要な工具
- 裸端子用圧着工具
- 絶縁端子用圧着工具
- ケーブル切断、ストリッピング用工具
- ドライバー
※大電流かつ高温になりますので接続箇所は絶対にハンダ付けを行わないで下さい。
オーブントースター 2 モデルの違い
本キットはNT-T500ないしNT-T300を対象としていますが、両者で仕様にかなり差があります。NT-T500はU 字ヒーターを採用しており庫内が広く加熱範囲が広いです、NT-T300は廉価版という扱いで直管ヒーターになっているので狭い範囲を強く加熱することが可能です。背面部分がフラットになっているので、さらに改造を施す場合はT300の方が向いています。本キットでは原則T500を推奨します。
オーブントースターの分解
回路を改造する為、オーブントースターをコの字型に覆っているカバーを取り外します。ここはT300/T500でほぼ構造が同じなのでT500の写真を元に解説を行います。
底部5か所のネジを外します。4か所は足の中にあります。
次にドアを取り外します。まずドアに付いている内カバーを取り外し、脚部分を前にずらすと外れます。外れたら下のように前部6箇所のネジを外します。
後部7箇所のネジを外します。
以上で上面側面を覆っているコの字形状のカバーの固定が外れます。鉄板が非常に薄く、破損し易いだけでなく非常に鋭利なので十分注意するか手袋を使用して下さい。
フロントの操作部パネル上下4か所のネジを外すとパネルが外れます。
以上で回路の改造が可能な状態になりました。配線をカットするのは次項、次々項をよく読んだ後にして下さい
M5Reflow背面端子と等価回路について
M5Reflowの等価回路は以下のようになっています。100v電源内蔵の為、電源の両極を確保する必要があります。
背面端子とのアサインは以下のようになっています。くれぐれも上下を間違わないようにしてください、ヒューズのある側がトライアックに接続されています。
T500の回路と結線について
※細かい構造は製品のロットにより異なる可能性があります、疑問を感じたらテスターで実物の回路を追って下さい。
等価回路は以下のようになっています。
物理配線と回路の対応は以下のようになっています。
xを可能な限りケーブルを長く残し、絶縁端子を圧着します。yzも同様にカットし、裸丸端子を圧着します。
M5Reflowの端子に接続します。yが上部ヒーター、zが下部ヒーターになりますので実物を見て確認して下さい。xの部分は短く固定しにくいですがラジオペンチなどで差し込んで下さい。
電源用のwの配線を行います、予めケーブルが配線されているはずなのでM5Reflow筐体を仮固定後、筐体内側の金属部品に触れないよう配線を固定します。固定には切断して不要になった既存の耐熱電線を使います。端子は圧着されていないので必要な長さで切断して端子を圧着、既存ねじ止め部に割り込ませて固定します。
再度組み立てる前に十分安全に配慮しつつヒーターの駆動テストを行います、M5Stackを接続する前に必ずプログラムの書き込みを先に行ってください。既存プログラムのIO設定によってはM5Reflowを破損する可能性があります。
T300の回路と結線について
等価回路は以下になります、 同仕様 2本のヒーターを直列/並列に切り替えて火力調節を行うシンプルな構造です。
直管ヒーターが使われていますので配線が左右に分かれています。
回路図を見ると分かりますが、’v’ の部分を’w’に結線する必要があります。適度な長さに切り裸端子を圧着し共締めします。ねじの長さがぎりぎりなので適切な長さのM3ネジを新たに用意した方が良いです。電線が直接内側の金属部に触れないよう配線を行って下さい。
上記の結線の変更以外はT500とほぼ同じです。
M5Stack へのプログラム書き込み
M5Stack の設定手順に従い USB-UART ブリッジの CP2104 ドライバのセットアップを行います。 ArduinoIDE-M5Stack 環境を既にインストールされている場合はドライバも既にインストールされている筈です。 Silicon Labs のサイトからダウンロードするのが確実かと思います。リンクは変わるのでサイト内で検索して下さい。USBで接続してシリアルポートが認識されていれば設定完了です。
バイナリの書き込みは Espressif Flash Download Tool を使用します。Support>Download>Tools にあります(2019.7月時点)。
起動後チップ選択画面で ESP32 を選択します。
最初にバイナリ無選択の状態でSTARTボタンを押すとSPIフラッシュの設定が自動的に取得されます。ERASEボタンを押すとターゲットのフラッシュがクリアされるので、GitHubのbinフォルダ以下にある3種類のバイナリを以下のアドレスに書き込みます。
https://github.com/ooISHoo/M5Reflow/tree/master/bin
- bootloader.bin 0x1000
- M5Reflow_patitions.bin 0x8000
- M5Reflow.bin 0x10000
画像のようにFINISHと表示されれば成功です。
操作方法
操作は M5Stack のABCボタンおよびロータリーエンコーダとエンコーダーのプッシュボタンを用いて行います。M5Stackのボタンは正面左からABCとなっています。エンコーダープッシュボタンは原則的にCボタンと同じ動作になります。
※初回起動時はファイルシステム初期化の為、初期画面に遷移するまで時間がかかります。この時電源を切るとファイルシステムが不正な状態になり予期しないクラッシュの原因となります。
ブート後、自動的にリフロー待機モードとなります。表示内容を以下に示します。
- 現在の動作モードとステータス
- 現在温度と(右上)目標温度、(右下)秒辺りの温度変化率
- 現在のステージとリフロータイマ
- ヒーター出力上下
- それぞれのモードでのABCボタンの機能
- ステージビジュアル表示
このリフロー待機画面からAボタンでモード切替え、Bボタンで リフロープロファイルの編集 、Cボタンでリフロー開始です。
プロファイルは4種類設定可能です、設定内容は後述するセッティングモードでフラッシュストレージに保存する事が可能です。保存した設定は起動時に自動で読み込まれます。項目内容は以下の通りです。
- 選択中のプロファイル番号
- プリヒート温度
- プリヒート時間
- リフロー温度
- リフローピークホールド時間
- リフロー時間計測用のスレッショルド温度
- リフロー時のヒーター最大出力(未実装)
Aボタンを押しリフロー待機画面に戻りさらにAボタンを押すとセッティングモードとなります。
モード共通の設定を行う画面です。温度制御パラメータは全て補正値で生の値ではありません、それぞれ-16~+16で調整します。
- 温度制御用スロープ補正です、オーバーシュートが過大に感じたら大きく、温度到達まで時間がかかるようなら小さく修正します
- 温度制御用目標差分補正です、目標温度到達後の上下動が激しいようなら小さく修正します
- 温度制御用積分補正です、目標温度にいつまでも到達しないよなら大きく修正します
- サウンド出力の切り替えです(未実装)
- 接続している熱電対がこれ以上の温度を検出すると出力を強制カットします(未実装)
- M5Reflow内部温度 がこれ以上の温度を検出すると出力を強制カットします(未実装)
- リフローモード開始からこのタイムアウト時間を過ぎると出力を強制カットします(未実装)
Bボタンを押すと設定内容をセーブします。
※保存した設定を破棄して初期状態に戻す場合はFlash Download Toolを使って何でも良いのでフラッシュの上書きを行いファイルシステムを破壊して下さい。次回起動時に初期化されます。
ファームの未実装項目について
8月3日時点で未実装が多いですが、ターゲットの製造、ドキュメントetc.の平行作業で手が回らず近々対応しますので、アップデートについてはGithubのリポジトリをチェックして下さい。 やります。
熱電対の固定について
トースターでリフローするプロジェクトは沢山ありますが、成否のかなりの部分を温度検知が占めます。通り抜け型の量産用リフローと異なり温度センサーの遅延の影響が非常に大きい為です。本キットでは外付けK型熱電対を利用します。空中配線ですと計測に大きくバラ付きが出てしまいますので、このように適当な基板にカプトンテープで基板に密着するよう固定し、リフロー対象の近くに配置します。ねじ穴にボルトを通しておくと固定に便利です。
繰り返し高温フラックス蒸気に晒されるため、熱電対は消耗品です。一般的なオメガコネクタのK型熱電対が使用できますので、定期的に交換して下さい。